仕事をもらうために営業するにしても、これまでの実績がなければどうしようもない…。多くの人はそう考えるかもしれません。ですが、実績がないならないなりに、やりようはあります。そのひとつが「実績ではなくサンプルを作る」というやり方です。
ライターを探している編集者やクライアントがライターに求めている最大のものは「実績」ではありません。「欲しい文章を書いてくれるのか」という点です。キャッチコピーでも取材記事でも、どのようなテーマや要求に対してどんな文章を書くのかが重要なのです。だいたい「実績」っていったって、名のある出版社から自著を出していたり、大手の広告コピーを手がけたりというレベルのものでなければ、あるいは「この道10年」くらいの経験値でもなければ、あまり参考にもされません。つまりライター初心者、あるいはこれからライターを始めようとする人にとっては、あってもなくても大差ありません。だったらサンプルを作ったほうが、よほど参考になります。
ここで言うサンプルとは、文字通りのサンプルです。広告系であれば何らかの商品をテーマに、それを広告するコピーを作る。ウェブ記事であれば、特定のテーマで書かれた記事をベースに、自分自身で情報を集めて記事を再構築してみる。つまりはサンプルです。こういうものがあれば「どんなテーマで何を目的としてどんな文章を書いたのか」が分かりますから、クライアント側でも判断を付けやすいはずです。何の作業経験もないのであれば、それを踏まえた上でこうしたサンプルを作って営業に出たほうが良いのではないでしょうか。
私が実践したのはもう少し踏み込んだもので、営業先でお題をいただく、というものでした。つまり何らかのテーマや目的をいただいて、それに沿ったテキストを作る、というものです。架空の依頼を作りあげ、それを請けるというわけです。もちろん締切は設定しますが、お代はいただきません。「試しに、こうしたことをさせていただけませんか?」と提案すると、たいていは「じゃあやってみてよ」という感じになります。つまり自分の文章をアピールできるチャンスを得られるわけで、その先に進む糸口を掴める、ということになります。
すでに過去に他のライターが納品した案件について、あらためてお題としていただければ、クライアントとしても比較検討できて好都合かもしれません。取材モノはインタビューの音源やメモがないとどうしようもありませんし、それをお預かりするのはコンプライアンス上まずいかもしれません。しかしウェブ上の情報から構成した記事であれば問題はないでしょう。もしかしたら、過去記事とはまったく違う切り口の記事を提供できるかもしれません。
ライターやデザイナーの仕事は、すべてオーダーメイドです。しかもコストと品質のバランスは、クリエイターごとに違います。つまりバラツキ…当たりと外れがあるのです。ビッグマックのように、全国どこでも同じ価格で同じ品質のものが手に入るというものではありません。それだけに、発注側は慎重になります。仮にもクライアントから預かっている案件を、当たり外れのあるギャンブルのテーブルに載せるわけにはいきません。ですから新たなクリエイターの起用には、慎重にならざるを得ないのです。
そこをケアできるのがこの方法です。タダ働きではありますが、それは営業の一環です。先方が「これはいけそうだ」と考えて「こんな話があるんだけど、どう?」と水を向けられたなら、そこで初めてギャラとスケジュールの話をすれば良いのです。